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陶器神社Ⅱ ~人混みの中、一人で歩く~

1年半ぶりに、電車に乗った。
しかも、一人で。

1年半というタームがあくのは、もの心ついて以来の経験。少なくとも、年に数回は電車に乗っていた。中学生になってからは、毎日、のべ2時間ぐらい電車に揺られていた。仕事や旅で、新幹線や飛行機、船にまで、当たり前のように一人で乗っていた。当たり前のように。

通常と異常の感覚は、互いに入れ替わりながら、刻々と変化し続ける。

出産という、野生の感覚を取り戻す体験の後、四六時中、野性的な赤子と共に過ごす日々。駅やコンビニまで、車で30分近くかかる、静かな田舎。この山間部では、小学校に上がるまで、電車に乗ったことがない、という子供達も少なくない。
私はペーパードライバー。もちろん、産後も何度か取材に行ったが、パートナーに現場まで車で送ってもらい、取材前後に授乳、というパターン。天理への買い物にしろ、イベントにしろ、私が行くということは、赤子も一緒ということで、すぐに一家総出の行事になってしまう。財布なんかを忘れた日には、サザエさんのように愉快な出来事ではすまない。

11日、大阪市内に行く用事ができた。「車で近鉄奈良駅まで送るぐらいなら、大阪市内まで送る」、と亘。ということで、また一家総出の行事になった。
私が現場にいる間、二人には吹田市の「モモの家」で待ってもらうのはどうだろう…。と、思った途端、健ちゃんから電話があり、11日に「モモの家」に行く、という。電話を置いて、ネットでmixiを見たら、「モモの家」の、ぎのさんがコメントを書き込んでいてくれた。久しぶりにPCを開いて、その日はRupaの日記だけを見てくれたらしい。

これは、「モモの家」に寄らせてもらうしかない!

神野山でつくった鏡餅を積んで、いざ、吹田へ。
久々の「モモの家」。この、のどかな家は、赤子にとっても天国。その日は、健ちゃんをはじめとする、農的暮らしをする若者たちが集っていたから、早速、みんなに相手をしてもらって、超ご機嫌。それで安心して、サザエさんのように、「いってきまーす」と、家を出た。

が、一歩、出た途端、一人で町を歩くということ自体、久々であることに気が付いた。
いろんな町を一人、ただひたすら歩くのは、むしろ大好きだった。が、この1年半あまりの静かな田舎暮らしで、どれほど感覚に変化が生じていたかが、痛いほどわかった。
いつも車の窓から見ているコンクリの町を、実際に歩く。パッチワークみたいな道の表面を見ていると、結構、楽しい。周囲は、知らない人ばかり。信号が変わろうとする前に走る、という行為は、ゲーム感覚。

亡き祖母が、初めて大阪や東京の町に出たときの驚きを、度々、私に語ってくれたことがある。奥出雲の山奥から大阪に就職した私の父。息子の誘いで実現した、物見遊山。当時は、テレビもない。江戸時代的な生活環境から、いきなりの大都会。生まれて初めて見る、大群衆。もちろん、信号も初めて見るものだから、突然、動き出す群衆の波にびっくりして、横断歩道をわたりそびれてしまった、という。

彼女の孫が、今、それを追体験している。

駅に着いた。同じ場所に並んでいるというのに、何種類もの切符の自動販売機があって、どれを使うかを選ぶのに、少々時間がかかった。乗り換えボタンがたくさんあったが、知らない単語は無視して、乗るべき路線だけを瞬間的に選ぶ。
試しに駅のベンチに座ってみよう。ちょっとした冒険。なんだか得した気分になるじゃないですか。昼間から、いろんな人達がいて、なんだか、ワクワクしてくる。電車がきたので、急いで乗った。
なんと、暑い空気。コートも脱がずに、よくこんな空間にいれるもんだ。運転手が見えないし、存在が感じられない。同じような景色が、あまりにも受動的に流れていく。流れのない、息がつまるような空気の中でじっとしていると、どこかに移動している実感がなくなっていく。人口密度は、極めて高い。お互い知らないままでいよう、と固く決意したかのような、知らない者同士。
こんな大きな乗り物を見たら、うちの赤子はどんなに興奮と緊張を繰り返すことだろう。でも、この乗客たちを見たら、何よりも不思議に思うかもしれない。どうして遊んでくれないのだろう、と。

電車が地下にもぐり始めた頃から、急に緊張感が高まった。これは、動物的な勘としか言いようがない。本能的な部分が、「ここは危険だ!」というサインを送ってくる。乗り換えのために地下鉄の駅で待っている間も、早く地上に出たくてたまらなかった。
出口を求め、非常階段さながらに、急いで地上へ出た。

振動をともなう轟音。埋め立てられた運河の上の、高速道路。水平な道を、滝のように車が跳んでいく。何台もの車が失踪する様は、巨大な龍のよう。しぶきを浴びないように注意して道をわたり、当面の目的地・目印である神社へ、大急ぎで駆け込んだ。
by rupa-ajia | 2006-01-12 22:36 | ライターの仕事
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