古来、一日の終わりは日没とされたため、一年の終わりは大晦日の日暮れでした。年迎えの本番が始まるのは、大晦日の夕方から。薄暗がりのなか、大和高原と、隣接する三重県伊賀地方では、新年の迎え火行事「福丸迎え」がよく行われてきました。 家ごと、または数軒ごとに、広場や辻、田んぼ、境内などの決まった場所で(餅やご飯などのお供えをする家も)、松明や藁、竹などに火を灯す。そ して火が最高潮になった頃、「福丸、こっこー(福の神よ、来い)」と連呼して(唱えない家も)、提灯や松明に移して家に福火を持ち帰る行事です。 「福丸」の「丸」については、福の神や船の名前、「福、参る」の訛りなど、諸説ありますが、私は少なくとも江戸時代に、「福丸」の原型の唱え文句が大和の随所で広まったと考えています(大和高原における、他の年迎え行事、カギヒキの唱え歌から類推)。 火を通して、新年に外から神をお迎えし、家内に招く祭祀。持ち帰った火は、まず神棚や仏壇など、家内の数々の灯明に灯し、その後、お雑煮をつくるための神聖な火として、竈(現在はコンロ)にも点ける家もあります(お雑煮の水は、山水や井戸水の若水を使用)。 大和高原で行われる火の祭祀の多くは、いつも山とかかわってきました。年迎え行事の基層にも、山の神の神事がしっかりと根付いています。 山の神を招き降ろした木に、火を放つことで、火は山の霊威そのものとなるのです。 年迎え行事の詳細は、家ごとによって非常に異なります。古老たちにお話を伺っていると、代々隣家同士で暮らし、親戚同様に交流する仲であっても、祭祀の違いにお互い驚き合ったりすることが少なくありません。それほどに山の神には秘儀的要素が濃厚なのでしょう。 正月の一般的なイメージである初々しさや清らかさを超えて、ダイナミックな胎動を生み出してくれる火。 旧・室生村砥取の「福丸」は、そんなプリミティヴな火のエネルギーを存分に浴びることのできる貴重な年迎え祭祀です。 田んぼに、竹を約30本、直径2~3mほどに立ててワラで周りを化粧し、夕暮れとともに点火。大和高原各地を探しても、10mの火柱が立つほどの大きな福丸は、ここ砥取以外で見ることができません。 砥取では、福丸の火で、子どもの書き初めを飛ばす風習もあることから、小正月の「とんど(どんど)」と習合している側面もあるのでしょう。とにかく、この大規模な福丸を長く継承してくださった砥取の先人の方々、そして燈火会として建て直しをされた「砥取 福丸・燈火会保存会」の皆さんのご尽力には、本当に感謝が絶えません。 現代に蘇った砥取の福丸・燈火会は、地域の方々のみならず、移住者や訪問者にとっても、大きな気づきを与えてくれています。 まず何よりも、地域の貴重な伝統行事をベースにしていることで、地域の生活文化を発見する機会となっていること。 そして、かつてアジア諸国で重要視されてきた営み、そしてこれからの日本で非常に重要になってくるであろう営み、「共同作業」の機会を与えてくれていることです。 江戸時代の日本は、自給自足をベースにした高度な生活文化が築かれた国として、今なお世界に類のない時代として高く評価されています。 その生活は、大変な労力が必要とされるものでしたが、当時の文献から、「共同作業」によって朗らかに生活を切り盛りしている様子がうかがわれます。 一人では大変なことも、みんなでやれば「いとも楽しい遊び」になっていく。その神髄を、私たちの祖先は知り尽くしていたのです。 アジア諸国の家庭内祭祀の真骨頂の一つ、年迎え行事。 年々、簡素化・廃止される一方の日本の年迎え行事ですが、その忘却に拍車をかけたのは「日本人の大晦日は紅白歌合戦」というマスコミの洗脳でした。 地域ごと、家庭ごとに多様な年迎えの設えがあった、かつての日本。その根源に燃えさかる、時空を超えて太古から続く生命の火は、まだ完全に消えたわけではありません。 2012年の大晦日、2013年の年迎え。室生の砥取で、原初の火を分かち合いませんか。 今年は、移住者仲間が多くかかわっていますし、竹アーティストの三橋玄さんデザインのサプライズな竹アートも見もの。龍穴神社のある室生にふさわしい造形作品です。 大晦日は夕方から、道の駅「室生路室生」(近鉄大阪線「三本松」駅のそば)から随時、会場の砥取の棚田まで、シャトルバスが運行されます。 早めに来て、共同作業に参加したい方も、大歓迎。到着時間を合わせてくだされば、急行や快速急行が止まる「室生口大野」駅までお迎えに行ける可能性大ですので、是非、事前にご連絡ください。とにかく厳寒ですので、厚着を!耳までかぶれる帽子や長靴がオススメです。 願い事を紙に書いて、福丸の火に飛ばすのもいいですね(室生では小学校で筆記。上の子は「度胸」と書いたらしい…)。今回、音楽ステージの後にサプライズ、その後、火で餅を焼いて食べながらのフリーセッションもあったりしますので、楽器ご持参、大歓迎~。 世界の始まりのエネルギーをもたらしてくれる福丸の火 新しい生命への萌芽を促しながら 17:00~ 地元住民の福丸 点火(家に持ち帰り、灯明点火) 18:00~ イベント開始、挨拶、ライヴ演奏 マナナ(大和高原:私も参加) あべひろえ(京都) 奈良ジャンベの会(奈良県各地) 19:00~ 福丸、燈火、点火、そして…! 舞姫と、笛吹童子ならぬ笛吹オカンが。。 21:00頃 終了
by rupa-ajia
| 2012-12-25 17:02
| 大和高原(地元ネタ)
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■ライター 近藤夏織子
(こんどう・なおこ) 医学書出版社の編集部に在籍後、フリー。10数年前より民俗学の分野を中心に、古老への聞き取りを進め、独自の視点で記録執筆を行う。ほか、伝統、食農、田舎暮らし、神話、アート、紀行、建築、科学、医学、…、etc. 中世・ルネサンス音楽のレッスンも承ります(リコーダーアンサンブル)。 http://amanakuni.net/rupa/index.html 各種お問い合わせは、直接ご連絡を ■連載記事・掲載誌の一部 ミニコミ誌『なまえのない新聞』 名前のある家 2000年~ 不定期掲載 『チルチンびと広場』web版 連載コラム担当 「7代先につなげたい、 先人の心」 http://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/senjin/ 『チルチンびと』 民俗学分野の原稿を企画執筆 『田舎暮らしの本』 など 以前の記事
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